子供たちと一緒に夫の遺体と対面したときのこと

イギリスの中でもかなり大きな部類に入る総合病院で夫は亡くなり、その病院の地下にある遺体安置室にしばらく眠ることになった。

その前に夫のポケットから鍵やお財布などの所持品と、ずっと身につけていた結婚指輪が私に渡された。このときの感覚や気持ちも、もう覚えてない。パニックを通り越していた。

翌日朝、子供たちに多くを告げずに、友人にも付き添ってもらって、病院の遺体安置室に行くことになった。パパが家に帰って来ていないこと、私が泣き腫らしていたことは明らかだが、5歳と2歳の子供達は、何を想像していただろう。10歳のお姉ちゃんには先に伝えておいた。理解に苦しみ、静かに泣きだしたのを、私は言葉にならない思いで見つめ、一緒に泣くしかなかった。

遺体安置室に入る直前に、「パパは急に心臓が止まって死んでしまったの」と伝えた。「天国に先に行っちゃったんだよ」と。

冷たい冷蔵庫に入れられてても、奇跡が起きて生き返るんじゃないか、とかすかに思っていた。でも、夫の顔を見たら、悲しいというより、夫があまりにも、穏やかでハッピーな顔をして、笑っているように見えたので、「See you later. お先にね」って言われてるようにしか思えなくなった。 本当に、幸せな顔をしてたのだ。5歳の長男が「パパがいないから、もうキャンプに行けない」って最初の一言を発した。「もうすぐクリスマスなのに、パパはクリスマスを祝えない」とも言った。一緒にいた友人が、「きっと天国で大きなパーティーをしてるよ」となんとか答えた。2歳の娘は「ここが天国?この部屋が天国なんだね?」と言った。そのくらい不思議な奇妙な穏やかさもあった。もちろん、泣いたし、悲しいし、それは当然だけど、同時に、夫が人生を駆け足で進んでしまった完結感とも感じられるものもあった。

私は、夫に誓った。絶対にこの子供達3人と、お腹の赤ちゃん、4人の子育てをしっかりやるから、と。夫が誇りに思ってくれるように頑張るから、と。

私は強くなるしかなかった。

夫がいなくなった日〜夫が亡くなった

私が病院に着いたのは19時ちょっと前だったと思う。焦る私に、受付の人が「そんなに慌てなくても大丈夫だから」と私をなだめる。彼女は夫の症状なんて何も分かってなかったのに。

処置室に入るとすぐに、これは只事ではないと分かった。夫の着ていたシャツはハサミで切られ、夫は機械に繋がれ、心臓マッサージやら電気ショックやらを受けていた。一緒に付き添ってくれた友達と私は祈ることしかできない。状況もつかめない。私がそばに行けば夫の状態は良くなるはずだと、病院への道中はずっと信じていたのに、本当に、本当に危うい状態なことが分かった。ここからの記憶は、もうあまりない。

20時半過ぎ、夫の臨終が言い渡された。スタッフの目には涙も見えた。

夫は教会の中で、あっけなく倒れたらしい。教会内に医師がいて、すぐにマッサージを始めてくれたらしい。そして、雪にもかかわらず、救急車は2分もかからずに来てくれたらしい。それなのに、それなのに、健康だった40代の夫が急死した。どうすればいいんだろう、どうすればいいんだろう、私は、そればかり言っていたような気がする。

クリスマス直前、私は妊娠5ヶ月30代半ばで小さい子供達を抱えて、未亡人になってしまった。

夫がいなくなった日〜病院に行くまで〜

週末だった。特売セールで買った牛ミンチでミートソースを作って、お昼にスパゲティと一緒に家族みんなで食べた。めずらしく、美味しくなかった。本当に美味しくなかった。「美味しくないね、特売のこのミンチ、変なのかな?」と苦笑いしながら、それでもみんな食べた。夜ご飯は手巻き寿司にするから、それは楽しみだね、美味しいサーモンも手に入ったしね、と言いながら。

この不味いミートソーススパゲティが夫の食べた最後の食事になった。大後悔で、本当に申し訳ない。

夕方、夫はいつも私たちが通っている地元の教会に出かけて行った。私はつわりで寝込んでいたし、子供達と家に残った。「バイバイ」と送り出したものの、車までは見送らなかった。アイラブユーも言わなかった。

夫が出かけて1時間も経たずに、私の電話が鳴った。夫が倒れて救急車で運ばれたというのだ。救急隊員が私にいろんな質問をしたけど、もう詳しくは覚えてない。ただ、この数日飲んだ薬はあるか?と聞かれ、その日市販の風邪薬を飲んだ、と答えたことは覚えている。とにかく出来るだけ早く病院に向かってくれ、とのこと。夫が車を持って行ったので、私はタクシーで病院に向かった。イギリスで雪は珍しく、ノロノロ運転で気が焦った。病院からまた携帯に電話がなった。

すごく悪い予感がする。祈り続けた。

夫が亡くなる前日

私たちはイギリスに住んでいた。珍しく雪が積もった寒い冬の日。会社のクリスマスディナーに行ったんだ。つわりできつかったけど、おしゃれして出かけた。なのに、私たちは引き返した。慣れない雪道で、運転に不安を覚えたからだ。同僚の多くも急遽キャンセルする人が多かったし、私は、もともと夫の会社のパーティーに同席することに乗り気ではなかったから、まぁいいか、と軽く考えた。夫は残念そうだった。せめてと思い、帰り道に、美味しいチーズを買った。

家に帰ったら、息子がぐずった。夫は私と一緒に寝たそうで、私が息子と寝ると言うと寂しい顔をしたけど、私は息子とそのまま寝てしまった。

最後の夜だったのに。一緒に夫とベッドで眠るべきだったのに。


ブログ開設

最愛の夫が急死した。まだ40代になったばかりなのに。私もまだ30半ばなのに。小さな子供もいて、私は末っ子を妊娠中なのに。ジョギングやスイミングをやって、健康そのものだったのに。

若年未亡人、死別シングルマザー、という言葉でいくつもネット検索する日々。苦しくて苦しくて。

私もブログを書いてみようと思う。